(「デートしてほしいの」――単刀直入に切り出して約束をもぎ取った秋のとある休日。審神者となって早四年、外出に刀剣男士を伴うことも無くは無いが、私的な理由でひと振りを連れ出すのは初めてのことだった。任務でも遠征でも買い出しでもない、男女の逢瀬。案の定準備に手間取り、藁にも縋る思いで頼った先は様々な刀剣男士であっただろうが、特に貢献したのは彼の兄弟たる堀川国広、そして始まりの一振りである蜂須賀虎徹だ。ああでもない、こうでもないと何かと苦労の末、辿り着いた十月某日。大型の森林公園入り口にて、傍らの彼を見上げるだろう。)本当に良い天気になったね、国広くん。それにとても良い香り……、本丸の景趣も寒露に変えようかな?(ふと思案するように呟き、続いて彼の言葉を待つかの如くじぃっと双眸を覗き込む。その装いはピンクベージュのワンピースに秋らしさを意識したブラウンのドルマンニットカーディガンを羽織った格好で、足元はベージュのスニーカー。小さめのバッグを斜め掛けにして、身軽に楽しむ気であることは間違いない。やがて視線を公園内部へと遣りながら道の先を指差して、)この先は散歩コースが続くみたいで、奥では車の移動販売も来てるらしいの。……全部、国広くんと一緒に楽しみたいな。(再び翠の双眸を見上げる頃、はにかむように頬を綻ばせる。やがて「行こう!」と弾む声と共に手招きをしては一足早く公園内へと踏み出そう。)
(昨夜、「明日の準備は済んでるの?」と尋ねて来たのは兄弟刀の脇差。適当にやり過ごそうとしたが、詰めに詰められ布を被っていこうとした事がバレ、一体何処から調達したのか現世に馴染む衣一式を押し付けられて。お節介めと憎まれ口を叩きながらも結局は受け取り、かくして当日の衣装は急遽変更となった。グレーのカジュアルシャツに重ねたネイビーのパーカーは、ボタン留めタイプでフードの裏地がストライプ柄、ベージュのカーゴパンツと黒のスニーカーという格好で迎えた約束の時刻。深く被ったフードの下、秋めいた装いの彼女に目が奪われたのはバレていないといい。)……そうだな。あんたがそう思うなら、いいんじゃないか。こっちを見るな。(何もかも見透かすような瞳から逃げるように顔を背け、いつにも増して口下手な返答はきっと緊張のせい。デート、などと言うから妙に意識してしまったが、彼女があまりにいつも通りで拍子抜けたような心地で。とは言え折角の時間を拗ねたまま終わらせたい筈も無く、そっぽを向いていた視線が指差された方を見て――時間を置いてから朝焼け色の瞳を見た。)っまぁ、あんたがそう言うなら…、……俺でいいのなら付き合う。置いて行くなよ。(風光明媚な景観にも負けない笑みに息を飲んだ一拍を経て、搾り出した返答は数分前の言葉をなぞるようで。一度口を閉じ区切ったなら言い換えて、男もまた歩き出す。)ここはよく来るのか?
(翠の双眸はいつも布の奥。視線が合わないことへはもう慣れたとて、その日の彼の装いは珍しいものだった。つい勢いのままに「素敵、そんな格好も似合うんだね」と当人の目の前にて褒めちぎったのもついさっきの出来事だ。公園へ向かう道すがらも彼を盗み見て、辿り着いた先、そして二人きりというシチュエーションにドキドキ半分、ワクワク半分といった心地だろう。勿論つっけんどんな態度には「もう」と一瞬肩を竦めるものの、すぐに笑顔へと戻る筈。)“で”いいんじゃなくて、国広くんがいいんだよ。……ほ、ほら、早く早く!(決して妥協ではないこの気持ちが伝わるだろうか。ゆっくり発音して、今更の気恥ずかしさを誤魔化すように急かしてみせる。彼が隣に来るまで待ち、再び歩き出す足取りはやはり軽い。)んー、今はあまり。審神者になる前はたまにジョギング……走り込みに来てたの。竹刀振るのにも、まずは体力!……でしょう?(両手を使いエアーで薙刀を振る素振りをして、口端を上げながら隣りを見上げる。視線の先、やはり何度見ても本日の私服姿は眩しくて、直視しすぎることを避けるように辺りの木々を見渡すだろう。)それに今は紅葉も綺麗だから、国広くんと見たいなと思って。(ほら、と続いて指差す先には黄色に染まったイチョウの木。足早に近づき落ち葉を一枚拾い上げ、黄金色の髪に翳すように重ねてみせた。)うん、同じ色。綺麗……って、言ったら怒っちゃう?
(褒め言葉に弱いままで、押し黙って顔を背けてしまうのもお馴染みの光景だった筈。それでも惜しみなく言葉を与えてくれる彼女に何も返せない歯痒さはあれども、そう簡単に変わる事も出来ないままで。金木犀の香りに吹かれながら、フードを引っ張り)っ……照れるくらいなら、言うな。(一文字の違いは意味を変えて心に届き、ぐっと口を結んだ。後の呟きは小声となり、じわり染まる頬の色からも照れ隠しとわかってしまうか。彼女の隣に並べば、歩く速度を落として)なら、此処はあんたの住んでいた場所に近いということか。……ふっ、勇ましいことだな。健康でいてくれるのならそれでいいが。(彼女の故郷の一部であると思えば見え方も変わってくる。薙刀を振る姿はいつだって活気に満ちているのだから、止めるような真似もせず精々体を酷使しすぎないよう伝えるだけ。解けた吐息は少しだけ素直だ。)そういうものか。誰と見ても同じだと思うが……(情緒の欠片も無いが、悪気があっての事じゃない。彼女の元で四年の時を過ごしたが未だに感情というものは理解しきれていないだけだ。不意に掲げられたイチョウの葉に瞬き、翠が彼女を映す。言葉を探して、それから口を開け)……今日だけなら、好きにしたらいい。(不器用ながらの譲歩を見せた後、じっと彼女を見据えて)俺は、あんたの方が綺麗だと思うが。(秋にはないその色彩への、まっさらな感想だった。)
(いつも通りの彼が愛おしいのもまた今更の話、ただ隣を許してくれているだけでも十分すぎる程だ。そして常々目で追っているからこそ彼の返答が拒否では無く照れ隠しなのだと察すれば、心の奥を擽られ気の抜けた笑みを浮かべていただろう。隣り合う彼を見上げる視線は、どこか嬉しそうにも映る筈。)うん、実家からはそう遠くないの。勿論体の健康は第一にしてるし、これからもするって約束するよ。……でも、時々は山伏さんとトレーニングしてみようかな?(彼の解けた物言いに頷きながら約束は真っ直ぐに伝えて、付け加えるように力こぶを作る真似をしてみせるのは冗談か、果たして本気か。)ん、そういうもの。いいなと思ったものは……好きなものは、共有したいって私は思うんだ。(押しつけにならぬようにとなるべく柔らかく呟いて、彼が時折口にする機微への不理解へ自らの見解を添える。人に個性があるように、彼だって己と違う感性でいい――そう考えるが故の、ダメ元での問い掛けだった、のだが。)わ、嬉しい!今日は特別……、 ……えっ、綺麗……って。ど、どの辺りが……?(真っ直ぐで何の他意もないであろう発言が余計に心臓に悪く、頬は素直に色を灯す。イチョウの葉で顔を隠しながら、言われ慣れていない所為で思わず頓珍漢な問い掛けをしてしまったが、御礼と共に素直な所感が口を吐いた。)その、ありがとう。綺麗って、言われる側は慣れないものなんだね……。
……正気か?まぁ、兄弟ならあんたに無理はさせないだろうが…程々にな。(彼女の言う事を真正面から受け取り、修行風景を想像しては顔が顰められる。武道を嗜んでいるとは言え、自分達からすればか弱き娘である事に変わりはない。しかし彼女の大胆な行動力を身を持って知っているものだから、せめてもの忠告を呟くのみ。)共有、か。俺なら――……っいや、なんでもない。(好きなものをどうしたいか、それを考えた時に共感は生まれなかった。ついまろび出そうになった本音を寸でのところで飲み込み、無かったものとして流してしまいたい。彼女と居ると口下手が悪化する上、言うつもりのない事まで口にしてしまって儘ならない。今とて血色の良くなった白い頬を見て随分気障を言ってしまったと遅れて気がつき)~~っ……お、俺の気持ちが少しはわかったか。(フードを深く被るように引っ張り、苦し紛れに言い返す。うっすらと染まる頬は隠しきれず、動揺も隠しきれはしないが。言った事には責任を持って質問に答えようと)……髪とか、目の色。どちらも俺とは正反対の色だな。(普段気にも留めないような事実を、イチョウの葉が改めて教えてくれた。己に無い物に惹かれてしまうのは必然なのかもしれない。)あとは……今日の格好も。綺麗だ。(風に浚われてしまいそうな音で呟き、照れ臭さを誤魔化すように歩調を速め先を行く。離れすぎるようなら流石に弛めるつもりで背後を気にしつつ。)
(程々に、と言い含められることはきっと初めてではない。「うん、わかった」と素直に頷きながらも、修行を実行する未来はあるのやも。――ふ、と。彼が止めた言葉の先へ耳を傾けようと首を傾げた。)国広くんなら……どうするのかな、私とは違うのかな。……うん、それもいいよね?“好き”の形はみんな違うものだから。(追求はしないにしろ、想像するのは自由。普段から言葉を憚らない性分は彼と正反対なのかもしれない。だからと言って不意打ちには慣れず、紅潮した頬は隠しきれないのだが。)うん、今、ちょっとだけ味わってる……。(ぼそりと同意をした後、ちらと見上げた先で同じ色を宿す姿を見たとて尚も心臓は煩いまま。重ねられた具体的な返答に瞬きを数度はさんだのも束の間、微かに聞こえた格好への言及に思わず眸が瞠った。)……えっ!?(大きめの驚嘆が響く頃、既に彼は先を行った後だったか。数拍遅れで小走りに近付いた後、とんと触れる程度に彼の腕を叩いて示して。)髪や目の色も、それに格好も……褒めてもらえてすごく嬉しい。正反対の色が綺麗だと思うの、一緒だね。(はにかんだ笑みを伴って傍らから覗き込む。正反対でも同じ思いはある、と嬉しくなったのは秘密のままに。やがて漂う金木犀の甘い香りから、ふと視線は辺りを見渡した後再び話し掛けるだろう。)わぁ、この辺りは特に良い香り!こんなに綺麗なのに、たった一週間しか咲かないんだって。知ってた?
(意趣返しだなんてつもりはなく、偶然の反撃となったに過ぎない。背後から聞こえた驚嘆の声に何処かきまり悪そうに一度瞑目すれば、歩調は緩まり互いの距離は容易に縮まるだろう。腕の感触に気付き足を止めかけた矢先、覗き込む顔に息が止まりかけ、翠の瞳が収縮する。)……お、大袈裟だな。主従揃って無いものねだり、というのもどうかと思うが…まぁいいか。欲しいものは傍にあるのだから。(時間を掛けて視線は逸れていき、やがては一つの木を映す。独特の甘い匂いはそこから生じているようだと考えながらの返事は、無自覚に自惚れを音にした。手を伸ばせば互いに触れられる程度の距離を保ち、彼女と秋の景色を視覚に収めながら)へぇ。一週間は花としては十分な気もするが…桜に比べれば大分短命か。綺麗だからこそ、なのかもしれないな。あんたは、この花が好きなのか?(己の髪よりもやや赤みの強い花。木へと歩み寄り、低い位置に咲いた花冠に軽く触れて問う。単純な興味からの質問だったが、彼女の好きな花ひとつ知らない事に気付けば幾許か沈黙を敷き。手は再びフードへと伸び、翠を隠すように。)……今日のような“デート”は、他のやつらともよく行くのか。(答えを聞いてどうするというのか。自問を胸に渦巻かせながらも、もやつく胸中をどうにかしたくて問いを投げ掛けた。彼女の方を見られないまま、金木犀の香りだけが甘い。)
(覗き込んだ先の翠の眸は相も変わらずに美しい。大袈裟でもいい、と云わんばかりに肩を竦めながらも、彼が続けた言葉にはつい口端が持ち上がる心地だ。「……んふふ、」と含み笑いを浮かべて、寄り添う距離感のままに小さな秋模様へと話題は移る。)成程、綺麗だからかぁ。その一週間でこんなにも記憶に残る花を咲かせるんだから、案外強かな花なのかも。うん、すごく好き!(花へ手を伸ばす姿を見遣り――正確には見惚れて、首肯と共に高らかな回答を。しかし、打って変わって彼の反応たるや、沈黙に思わず首を傾げつつも静かに言葉を待とうか。やがてフードが美しい瞳を隠してしまったと同時、聴こえてくる問いによって再び驚嘆の声を零すこととなった。)……えっ、いやそんな、誰彼構わず誘ったり行ったりなんて……。皆とはただの買い出しとか、護衛って名目なだけで……。(意図しない角度からの問いにまとまりのない言葉ばかりしか出て来ず、自ずと口を噤む。そうして数拍の後、短い深呼吸をひとつ。そうして己が手を伸ばしたなら彼の腕、或いは手へと触れることは叶うだろうか。叶わずとも、物理的な距離は幾許か縮まる筈で。)……あのね。デートに行きたいと思える相手は、正真正銘国広くんだけだよ。今までも、これからも。(一方的に見つめ、言い切る言葉とは裏腹に頬が熱い。静かな公園の中、橙色の花の下。今だけは二人きりのような錯覚のままに、優しく双眸を細めよう。)
(彼女の笑い声には心を軽くさせる効果があると同時、己より余裕を感じられるようにも思えて複雑だ。むす、と拗ねた表情は一瞬の間だけ。即答に近い肯定を貰えば其れを新たな情報として胸に刻むだろう。その美しい顔ばせと共に。――此方からの問いに空気が震えたのが判る。困らせただろうかとは思えど今更撤回など出来ず、双眸は伏したまま答えに耳を傾けた。安堵を得るには不確かな言葉をただ黙って聞くばかりだったが、触れられた腕の感触に徐に視線を上げていく。)……それは…(まっすぐな瞳に射抜かれ逸らす事は叶わない。フードの陰から覗く翠は微かに揺れ、言葉が続かず沈黙が流れる。長い前髪が風に揺れて視界がひらけた時、)……あんたはずるいな。思わせぶりな事ばかり言って。(小さな声でぼそりと呟く。何処か諦観を滲ませた笑みは歪で、緩慢に瞬いた後に気持ちを整理するように息をつき)まぁ、そんな言葉で嬉しくなってしまう俺も俺だが。……手。デート、なんだろう?(止まっていた爪先を進行方向へと戻し、歩き出す姿勢を見せ。その際に彼女の目の前に左手を差し出した。その意図を伝える声は相変わらずぶっきらぼうだが、開き直っている節も感じられるか。手を重ねられたら優しく握り、躊躇うようなら痺れを切らして掴みに行ってしまうかもしれない。何方にせよ余裕無く、暫く顔を合わせられないだろうが。)
(そよ風により揺れる翠がより露わとなった際、「……やっぱり、綺麗な色だね」と呟いたのは最早呼吸に近い。特に今日は許しを得ているからか、はっきりと発音して。)思わせぶりだなんて、本心しか言ってないのに。(眉を下げながら苦笑と共に返す言葉は、非難というより戯れの文句か。ただし、嬉しくなる、との言葉には不意打ちの如く心臓がひとつ跳ねた。更には其処へ言及するよりも息を飲んだ、此方へと差し出された彼の手。実感を得るにつれてじわりと喜びは巡り、)――っ、うん! ふふっ、嬉しい……。国広くんの手が大きくてどきどきしちゃうなぁ。(なんて、締まりのない笑顔で己が手を重ねよう。尤も、その手付きの緩慢さが躊躇と捉えられていたら、彼の方から掴む方が早かったかもしれないけれど。何れにせよ柔く握り返し、掌の温もりを享受しながら彼の隣を歩む。時折指先に力を入れたり軽く擦り合わせたりして、園内の秋香る心地良い歩道を行く最中、僅かに唇を開こうか。)……ね、国広くん。例えば買い物や何かで一回この手を離したとしたら……その後、私から当たり前に繋ぎ直してもいい? 今日だけじゃなくて、できれば……その、ずっと。(ぽつりと尋ねる音色は、流石のこの女とて恥じらいを含むもの。当たって砕けるには早いが、妙に大胆な問い掛けは“ならでは”であるのやも。ちらと伺うように見上げる顔には照れと同時、ほんの少し不安げな色を滲ませていた。)
(好きにしろとは言ったが、『綺麗』を受け入れられるかは別だ。フードの陰からじろりと見た翠の視線的抗議が彼女にどう伝わったかは定かでない。思わせぶりな本心とは余計にたちが悪い、などの悪態も飲み込む代わりに眉間に皺が寄ったりもしたが。)あんたの手は随分と小さいな。なんとなく、もう少し大きいと思っていた。(重ねられた手に触れてみて初めて気付いた事、感じていた事を呟く。力を込めれば壊してしまいそうで、柔く触れる程度だったが――まるで試されているかのような彼女の手の動きに、「落ち着かないからやめてくれ」と、諌めるように僅かばかり握る手を強めて。)……繋ぎ直すのはいいが…。(彼女からの問いに頷くのは簡単だが、多分本当に聞かれている事の意味を確りと理解出来ていない気がして言いよどむ。一度彼女を見つめ、悩むように視線を逸らした後)あんたにとって俺が、どの刀より一番だと言うのならそうしたらいい。(暗に、違うのなら断ると言うように。声は小さいながらも真っ直ぐと。)俺は…好きなものは、本当なら誰にも見せたくないし、独り占めにしたいと思ってしまう。その『好きなもの』になる覚悟があるんなら……俺からは拒む理由はない。(近寄るのならばその覚悟をと、忠告を送るのは不器用なりの想いのけじめだ。風にフードが浚われようと被り直す事も忘れ、立ち止まって彼女を見つめる。ただの主従に戻るのなら今だと、繋ぐ手を緩めた。)
至って標準的な大きさだと思ってるんだけど……ふふふ、いつも竹刀握ってる印象のせいかなぁ。(繋いでみたことで今更初めて知る互いの一部は妙に新鮮で、だからこそ無駄に動かしたりして。諫められると同時「ごめん、つい」と大人しくもした、けれど。――彼が口にする返答に、黄昏色の瞳が瞠目を示す。一瞬息を詰めた後、そのまま彼の語り口に耳を傾けた。普段よりも言葉を尽くし、フードが浚われることも厭わず届けてくれる様を焼き付けるかのように見つめ返しながら。)……本丸の刀剣男士はみんな大切で、家族みたいに思ってる。(足を止め、ぽつりと呟くように切り出す。そうして一呼吸よく息を吸い、意を決したように唇が続きの言葉を紡いでいくだろう。繋がる手の先で、指先がとても熱い気がした。)でも、国広くんはそれだけじゃない。国広くんとの二人きりの時間が欲しくなって、こうしてデートだって言って連れ出したり、何度も手を繋ぎたくなったり……そうしたくて堪らなくなるくらい、貴方のことが……す、 ……好き、なの。特別で、一番に。(言い募る言葉は徐々にまとまりが無くなり、頬の赤みはピークへと達するか。きっぱりと大胆な普段の物言いが嘘のように、ただ感情を吐き出すことでいっぱいいっぱいだろう。ただ、そんな最中でも緩んだ手を追い掛けるかの如く、繋ぐ掌は決して離さなかった。)……私は、国広くんの『好きなもの』の中に入れてもらえる?
(返事を待つ間も不思議と怯えは無く、彼女からの真の思いなら受け入れようという覚悟だけがあった。視線を絡ませたままに瞬き――)……俺は…(小さく切り出した声は、答えではなかった。双眸を伏せ惑うような仕草を見せたのは)待ってくれ、気持ちの整理が追いつかない……(片手で顔の右側を覆うようにして目を閉じ、搾り出したのは情けない声。気がつけば熱くなっている手よりも遥かに熱を持つ顔を自覚しながら長い息を吐き出す。数秒経ち漸く)あんたの言う好きと、俺の感じている想いが同じかは正直分からない。あんたは大事な存在だ、主だからな。……ただ、デートと言われて、それなのに俺ばかり妙に意識してしまっているのには腹が立った。だから今、あんたのそんな顔が見られたのも…特別で一番、と言われたのも嬉しいと感じている。(不恰好な事も卑しい感情もすべて伝えて、翠がゆっくりと彼女を見る。繋いだ手を此方からも強く握り返して)……好きなものなんて、あんた以外にないんだ、鈴。(眩しいものを見るように目を細め。遠回しだが、これが答えになっていれば良い。胸の痞えが取れたように息を付き、フードを再び被り直すと)腹が減った。何か買っていいか?(何でもない風を装いながら、散歩を再開しよう。しかしその声には確かな変化が生まれ、何処か気安く甘えを感じさせるような其れで。歩み出す前に、繋いだ手を指を絡めるような形へと変えてしまおうか。誰に教わるでもなく触れたいという想いがそうさせた。)なぁ、あんたは意外と照れ屋なんだな。(徐に伝えたのは、今日新たに知った情報の内の一つ。好きを言い淀む際の可愛らしい姿を、きっと何度も思い出すだろう。この金木犀の香りと共に。)