(その日は行楽日和の秋晴れ。朝のジョギングは欠かさずに行い、汗を洗い流してからお出掛けの為の服選びをした。ファッションに疎い娘の衣装棚から引っ張り出したのはグリーンのスウェットパーカー。裾がレイヤード風になっており、スリットが入ったバックフリルは腰周りが隠れるくらいの丈。オーバーサイズの袖に腕を通し、ブラックのスキニーパンツを合わせた。顔周りの髪の毛先だけを巻いて、後ろはお団子に。小さめの黒ショルダーには彼用の胃腸薬や水が入っていて、スニーカーを履けば準備は万全。)村雲、行こう。(先導するように玄関を出れば、真上にある秋の太陽に照らされながら、転移装置を用いて現世へと向かおうか。本日のスケジュールは事前に伝えてあり、山で紅葉狩りを堪能して、時間があるようなら麓の甘味処でお八つを楽しみ、夕陽が沈む前には帰ろうというのんびり仕様。)遠くまで連れ出してすまない。……でも、村雲と一緒がよかったんだ。来てくれてありがとう。(現世へ降り立てば、目当ての山とを繋ぐシャトルバスに揺られながら隣の彼に語り掛ける。此方を見てくれたなら、ほのかな笑顔を浮かべて。)酔い止めも持ってきているから、具合が悪ければすぐに言ってくれ。10分程度で着く筈だが…眠っていても良いぞ。
(今朝も早くからジョギングに出ていく彼女が怪我なく無事であるよう密かに願って見送り、帰ってくるのを見届けた後に男も準備を始めた。とはいえ様々な服装を楽しむ人間の娘と違い、割と現世でも違和感のない格好を元々していたのもあって、少しだけ髪を整えたとか、支度など微々たるもの。一方、しっかりよそ行きの装いをした彼女と対面すれば目を瞠り。)うん。主、今日はいつもと違うね。……似合ってる。俺みたいなのが隣にいると価値が下がりそうだけど……。(素直に彼女の格好への称賛を送りつつ、それと自らを比較するのも癖のように。そのまま転移装置で現世に到着し、まずは山で紅葉狩り。騒がしくない空間で彼女とのんびり過ごせるのは心地よく、今のところ腹痛の気配が微塵も見えないことにも安堵して。)いや、いいよ。騒がしくないところでよかった。……俺と?主は、変わってるね……他に、もっと話し上手だとか、楽しませてくれる刀、いたはずなのに。(そう眉尻を下げながらも、穏やかな表情の中に此度のお出かけを嫌がる素振りは見えない。お世辞にも活動的とは言い難い刀だが、本丸では優秀な刀たちが選り取り見取りの中であえて自分を選んでくれたのが嬉しかったのも事実だ。)わざわざ悪いね……眠くはないから、景色を見てるよ。主は、紅葉が好きなの?(彼女に気を遣わせることに申し訳無さも滲ませながら、バスに揺られて外の景色をゆるりと眺めて彼女に問う。)
? うん、ありがとう。村雲は綺麗な顔をしているし、スタイルも良い。その隣で見劣りしないように頑張ったつもりだから。(彼がよく口にする「価値」という言葉の本質を理解しきれず疑問を湛えた様相で瞬くが、似合うと言われた事には素直に頷いて。世間は平日だからバスの中は混雑もしておらず、見かけるのはシニア層が多い。娘もまた、彼と同じく騒がしい場が苦手であったからの日程で。)村雲と一緒にいると落ち着くんだ。きっと君からは、あの…アロンアルファ?いや…、マイナスイオン、が出ているのだと思う。本当は五月雨も誘おうと思ったんだが、今日はふたりがよかったんだ。次は三人でもこよう。(口下手ながらもなんとか彼との時間を欲している事を伝えると、うんと頷いて。感情表現が乏しい娘の恋心を悟っている物は少ないだろうが、かの一振りは気付いているかもしれない。二人用席の通路側から窓の外を見ると、自然と隣の桃色も視界に入るので口許が綻んで。)紅葉、というより秋が好きなのかもしれない。普段は緑色の山にたくさんの色を見つけるのが楽しい。美味しい物もたくさんあるし。(流れる景色を眺めていれば、目的地はすぐそこ。標高の高い山はよく目立ち)そうだ、村雲は高い所は平気だろうか。中腹からはロープウェイ…あれに乗ろうと思っているんだが。(指差したのは今まさにロープを渡っている心許無い箱。可否を問うべく彼を見つめる。)
俺が綺麗って……主さんの方が、ずっと……。見劣りなんて、しないよ。するわけないんだ。でも、頑張ってくれたのは、嬉しいよ。(己が居ることで彼女の隣が安くなることはあり得ても、逆は絶対に有り得ないと主張して。ただ、自身の為に頑張ってくれた事実にこそばゆくも満更でもない反応を見せて。)そうなの?なら、いいけど……マイナスイオン?俺から?雨さんから出てるなら、分かるけど……俺に言うのは、主ぐらいだと思うよ。……うん。俺も、雨さんと一緒なのは慣れてるけど、主と二人はあまりないから……こういうのも、悪くないものだね。また主さんの気が向いたら、付き合うよ。二人でも、三人でも。(五月雨江が居れば落ち着くのは間違いないが、彼女と二人の時間も心地よいもので、二人で出かけるのを渋っているわけじゃないと知ってほしくて。)秋が?知らなかった。主には、秋が似合う気がする。美味しいもの…どんな物が好き?(彼女の好きな季節や食べ物もあまり知らずにいたから、この機会に教わろうと珍しく積極的に疑問符を重ねて。)ああ、平気だよ。あの箱はロープウェイという名前なんだ……あんなに小さくて綱で吊られているだけの心許ない箱だけど、二人も乗ったら落ちないのかな……。(高所に抵抗はない男だが、乗ったことのない箱をじいっと見つめた後に再び視線を彼女へ戻す。彼女は問題なくとも己の重量が加われば危ういのではと、本気で心配そうに。)
よかった。村雲が嬉しいと私も嬉しい。(眦を柔らかく下げて頷く。シンプルな思考の娘には彼の複雑な思いはわからない分、感じた気持ちは素直に伝えるようにしている。少なくとも誤解というものが生まれないようにと。)そうだろうか、五月雨も言うと思うぞ?江の皆もきっと同意してくれると思う。……本当か?たくさん気が向いてしまいそうなんだが、それでも付き合ってくれるのか?(彼は癒やし枠であると自信を覗かせる口調で語りつつ、次回以降の話を持ち掛けられるときらりと瞳に光が生まれて。ずいっと顔を近づけ返事を求めた。)好きな物はたくさんあるが。とにかく野菜果物なんでも美味しいんだ。栗やさつま芋のようにホクホクしたのもいいし、柿や梨のような瑞々しいのもいい。……村雲は、何か好きな食べ物は見つけられたか?(饒舌に語れば想像でお腹が鳴りそうな気配を感じ、腹部にそっと両手を添えて。彼はどうだろう、と瞳だけ向けて問いかける。)フフ、あの箱も此処からでは小さく見えるが、実物はもっと大きいんだ。恐らく7~8人くらいは乗れると思う。風に揺られる事はあるが、重量オーバーで落ちる事は無い筈だから大丈夫だ。(不安が少しでも薄れるようにと出来る限り丁寧に、穏やかな声で説明しよう。やがて麓に到着したなら二人分の料金を支払い降車して。)わぁ……すごいな。秋の匂いだ。(見事に秋色に染まった木々を見上げて、ゆっくりと深呼吸。)
俺が嬉しいのを喜ぶなんて、主は優しいというか、お人好しだね……。(眩しそうに瞳を細めて、控えめに彼女に目を遣る。あまりに真っ直ぐで純粋な彼女だから、不届き者に騙されないかと時々不安も抱くほどに。)雨さんも……それは、嬉しいかも。……うん、嘘は言わないよ。あまりに立て続けだと困るけど、ほどほどの頻度でなら。(仕事も忙しい彼女に立て続けの予定など己の腹痛よりよほど心配だからと渋りそうだが、互いの身を案じる以外の理由で断るのは想像もつかないと頷いて。)なんでも……主は食欲の秋の人だね。主はとても美味しそうに食べるから、見ていても気持ちがいいよ。そこまで興味がなかったものでも、君が食べると美味しそうに見える。……俺の好きなもの、団子とかお粥とか……お腹に優しいものなら。(好きと括るには微妙な回答ながら、彼女の食べる姿を見るのは好ましいと仄かに微笑ましげな顔をして。)そんなに大人数が乗れるんだ……でも、主みたいな体格の人と俺みたいのが7人では話も変わる気が……まあ、信じるよ。(彼女の説明なら落ちないのだろうと納得して乗れば、無事に落ちることなく麓に到着。)ああ、そうだね。夏と違って、落ち着いて……枯れたような熟れたような、匂いがする。空気もひんやりしていて、穏やかだね。……綺麗だ。(それは秋色に染まった木々や辺りの景色に対する言葉でもあり、傍らで深呼吸をする彼女に対してでもあった。)
お人好し、はあまり良くはないのだろうか。たまに言われる言葉ではあるんだが。(徐に上の方を眺めて呟く。様々な意味が内包された言葉とはいえ、彼の様子はあまり歓迎していないように思えた。改める必要もあるだろうかと。)わかった。折を見て声を掛けてさせてほしい。村雲が行きたい場所も考えておいてくれ。(出された条件に迷わず頷き、嬉しそうに輝く瞳から近日中にお誘いがある事は予期出来るだろうか。添えた提案は彼が困らない程度の軽さで続いた。)む、そんなに見られていたとは。少し、恥ずかしい……。お粥も団子も私は好きだが、体質に関係無く好きだと思える物が村雲にも見つかると良いな。君の体質を改善出来るのが一番良いのだが。(日常的に胃腸の不安を抱える辛さは如何ばかりか。自らの力不足を嘆くように声は小さくなった。ロープウェイへの心配は実際に乗れば解消されるだろう、「楽しみだな」と前向きな言葉で一度締め括り、山へ。)……うん。空気が美味しい、とはこういう事を言うんだろうな。あ、美味しいというのは食べる的な意味ではなくて、だな…(彼の言葉に同意する傍ら、なんとなく食い意地を否定したくて不自然な補足を視線と共に向けたとき。何かを発見したように目を細めて)秋に春が紛れ込んだみたいだ。さ、行こう。(春の花と同色の髪に手を伸ばし、届いたなら撫でやって。歩き出す足取りは軽やかに、中腹までは緩やかな秋の道が続く筈。)
それも主の美徳だとは思うけど。もう少し警戒したり、相手を疑ってみてもいい。(彼女の親切さを好ましく思うも、何事にも自衛は必要だと注意を重ねた。)うん。俺の、行きたい場所か……今は、全然思いつかないから……暫く考えてみるよ。(瞳を輝かせる彼女は普段の凛とした主の顔より幾らか幼くも見えて、表情が和らぐ。けれど男が希望するなら、公園など近場がメインになりそうだ。)あ、いや。そんなにずっとは見ていなかったはずだし、嫌なら気をつける。……まあ、それは見つかれば幸運だと思っておくよ。この体質ともそれなりの付き合いで、もう諦めているから。いつも主に気遣わせているのは、申し訳なく思うけど。感謝してるよ。(優しい彼女は己のような一振りにも欠かさず気を回してくれて、薬なども携帯してくれたりと済まなく思う反面で感謝も一入。けれど今のところ調子の良いお腹を抱えて山へ行けば。)……はは。大丈夫、それは流石に俺でも分かるよ。(律儀に説明してくれる彼女の様子が可愛らしくも可笑しくて、控えめな笑い声が落ちる。)え?どこかに春の名物でも?まだ春はずっと先なのに……え、もしかして俺?(何処だろうと辺りを見回すも、彼女に撫でられて初めて答えに思い至り、思わずぽかんと瞬く。)……ふぅ。この辺りが中間ぐらい?(日頃から戦闘をしている身として人間ほど弱くはないが、他の刀剣男士に比べると持久力の心許ない刀は大きく息を吐く。)
ふむ、危機感が薄いように見える、ということか。気をつけてみる。(直ぐに思い当たる物はないが、自己を省みるのは大事だろうと頷いてみせて。次の行き先については急ぎでもないのでじっくり考えて貰おう。何処でも楽しめる自信があった。)い、嫌なんてことはない。ただ、知らない内に観察されるのが恥ずかしいなと思ったんだ…だからこれからは近くで堂々と見ていてほしい。(慌てて首を左右に振り彼の心配を否定して。真剣な表情で妙案を添える。)……そうか。食べ物に限らず、村雲が好きだと思える物が出来たら良いと思う。その手伝いもさせてくれ。勿論、煩わしく感じる時は言ってくれて構わない。(体質を補って余りある幸いがあればと願うが、自己満足の自覚もあるので引く姿勢も示しつつ。彼の笑う顔に心を温めては娘の表情も一層に柔らかくなり。)ふっ、……フフフ。そう、村雲のこと。桃のような桜のような、綺麗な色だなと改めて思って。服が緑色だから余計に花みたいに見えたんだ。(嬉しそうに顔を綻ばせては、足取りは弾む。木々の色付きや土に敷かれた葉を眺めながら進んで行けばあっという間で)ん、そのようだ。少し休憩しようか?ロープウェイの中は座れるから、先に乗ってしまってもいいが…(日頃の体力作りの効果か娘にも大きな疲労はなく。中腹には休憩所とロープウェイ乗り場があり、どちらに向かうか彼に委ねてみよう。必要なら水と薬も差し出すつもり。)
うん。本丸にはあれだけの刀剣男士がいるし、よほどじゃなければ主を守れるだろうから、常に気を張りすぎることもないと思うけど。(彼女らしいと思いつつ、他の刀剣男士らへの信頼も滲ませて。)嫌じゃないの?堂々と見るのは、俺の方が気まずいような……あまり露骨に見ていると、周りに怪しまれそうだし。もう知られたことだし、程々にこっそり見るよ。(正々堂々とした提案にそう来るかと目を丸くするも、ふっと微笑んで。)……そうだね。それは、見つけられたら嬉しいかもしれない。でも、主の本丸はこんな俺でも居心地がいいし、主と過ごす時間も穏やかで好ましい。もう結構、見つかっているかも。煩わしさを感じるのは、想像がつかないから心配しないで。(基本が後ろ向きな性質は変わらずとも、彼女の本丸に顕現してからの日々は、村雲江なりに気に入っているのだと迷いなく伝えて。そう思える場所を作ってくれた彼女に深く感謝しているのも、穏やかな日々が続くことを願うのも言わずもがな。)それは、買い被り……俺の価値を高く見過ぎな気がする。桜に緑……それじゃあ、桜餅?(提示された二色で和菓子を連想したのは、先の会話に影響されたか。)少し息が乱れはしたけど、流石にまだ平気だよ。主は?休まなくて平気?それに、あの箱に乗るのは……少し興味もあるんだ。(現世でなければ乗れない乗り物には若干の怖さと共に興味も覗かせて、ロープウェイに視線を投げる。)
ああ、嫌じゃない。……?村雲がそう言うならそれで構わないが…(気まずい、怪しまれる、とは何故だろうという疑問が表情には出ていたか。尤も彼が納得しているならそれで良いのだけど。)そうなのか?……よかった。それじゃあこれからももっと、村雲の好きな物を増やしていこう。私と一緒に。(貰った言葉を噛みしめるように呟いては、安堵と喜びが微笑みとなって。心配しないでと言われたのならその通りに考える娘は、当然のように傍に居る事を前提としてこれからを語る。希望を含んだ声は、少し弾んで。)そんなことはない、妥当だ。……桜餅、…たしかに。ピッタリすぎてちょっと面白いな。(口振りは穏やかながらに彼の否定に否定を被せる。予想外にしっくりと来てしまった食べ物の例えにはきょとんとした後、息を吐いて笑ってしまったりも。)私もまだ大丈夫だ。折角だし乗ろうか。(彼が興味を持ってくれたなら乗らない理由は無く、早速乗車券を購入して乗り場へと。数人乗りの小型タイプなので、今回は相乗りもなくふたりだけ。乗車時は速度が緩まるとは言え、動いている物に乗り込むのを躊躇うようなら彼の手を引いて行くつもり。)わぁ……すごい景色だ。赤と黄色がいっぱいで……村雲、大丈夫か?(窓に張り付き、眼下に広がる山の景色を熱心に眺めていたが。高さのある場所、宙に吊られた不安定なこの状況での様子を窺うべく向かい側の彼へ視線を向けて。)
……嫌じゃないなら、よかったよ。君の嫌がることは、したくないから。(それは彼女を慕う刀剣の一振りとして当然の感情で、安堵したようにふっと小さく息を吐いた。)うん、ありがとう。もっと?か……あまり欲張り過ぎるのも……でも、主と一緒なら、それもいいかな。(高望みをするのに慣れていない男は躊躇いと戸惑いの綯い交ぜになった表情を浮かべて視線を彷徨わせるも、他ならぬ彼女の提案なら後ろ向きに否定から入らず前向きに考えてみようと思えて。)そうかな……。だろう?そんなに面白かったの?(彼女の反応にきょとんと目を見開いて首を傾げるも、笑ってもらえると悪い気はしなくて目元が和らぐ。)そうだね……今回は、君と俺の二人だけ?他に人は居ないみたいだ。(客の少ない時間なのか、彼女と二人の貸し切り状態で乗れたのは幸いか。初めての体験ゆえに速度が緩まりはしても不器用にまごついていたら、彼女に引っ張ってもらう形になるか。乗り込んだ後、上から目にした景色は想像以上に赤や黄色に染まっていて、流石の男も息を呑んだ。)これは……壮観だね。同じ紅葉でも、地上から見ているのと、全く違って見えるよ。……うん。結構揺れるけど、まあ……それほど長時間乗るわけでもなければ、大丈夫だと思う。それに、この景色を見ていたら……気も紛れそう。いい景色だね。(きゅっと目を細めて、景色を見下ろす顔は一際穏やかで普段の不安そうな顔は跡形もない。)
村雲は欲張りすぎるくらいの方が丁度いいと思う。好きな物や楽しいと感じる事が増えたら、きっともっと素敵な人生…刀生?になると思うから。(彼の前向きな検討を更に後押しするように頷き、協力したいという気持ちを伝えておこう。)ああ、面白かった。花に例えたつもりが食べ物に変換されると思わなくて。これから桜餅を見る度に村雲を思い出すんだろうな…。来年はとびきりに美味しい桜餅を作ろう。(それも嬉しい事だと口元を緩めて、まだ先の春に想いを馳せる。相変わらず甘い物には目が無いが、彼が絡むのなら尚更だ。そうして手を取って乗り込んだ箱の中、見える雄大な秋の山は彼のお気に召したらしいと分かれば笑みを深めて。)うん。10分くらいで頂上に着くと思うから、それまでゆっくり眺めよう。……こういう大自然の中に居ると、自分がとてもちっぽけな存在に思えて…悩みも吹き飛んでしまうんだ。それがなんだか心地良くて、好きで。村雲にも共有出来たらと思って、此処に誘ったんだ。(ゆっくりと流れる景色と、彼の穏やかな表情を見つめながら。好きな人と、好きな物を。そんな願いを今日は隠さず。)あ、私達が乗ってきた電車も見える。小さくておもちゃみたいだな。(対面の席を立ち、彼の隣に座り直す。多少揺れてしまったかもしれないが、すぐに収まる筈。指をさして、同じ景色を楽しみたい。ふたりだけで、いつもより少し近い距離で。――頂上に着き下りる時には、当然のように彼の手を引いて、それから暫く離すタイミングを見失う“予定”だ。)景色の良い場所で写真を撮りたいな。あと、お土産も買いたいし…(幸せな休日は、まだまだ続く。)
そこまでは……欲張るの、俺はそこまで得意じゃないと思うし。でも、増やしたい気持ちはこの先も絶やさないようにするよ。折角、縁あって良い主と良い本丸に来られたから。(己の仕える主と本丸のことを心から誇らしく、また自慢に思っているのがありありと伝わる口ぶりは普段より幾らか力強さを帯びて。)それは、君との食べ物の話題につられたんだよ。あの会話がなければ、きっと思いつかなかった。……はは。俺もきっと、桜餅を見る度に今日のことを思い出す。来年の桜餅が楽しみだ。好きなだけ食べるといいよ。(だなんて珍しく冗談めかした音色を声に乗せ、ふっと瞳を細めて微笑みかけた。大の男が若い娘に手を引かれて乗り込む様は傍目に見れば滑稽だろうが、幸いにも人目を気にする必要もなく。)うん。……そうか、自分がちっぽけ……自分の価値については、よく考えるけど。たしかに、この景色を見ていると、そういう考えも何処かに置いて、空っぽでいたくなる。……俺も、好きになったよ。この景色。(彼女のお陰で、早くも新たに一つ好きな物が増えたのだと自然に頬が緩む。)え?……ああ、本当だ。確かに、あんなに小さいと動く模型のように見えるね。あれに乗っていたのが不思議な心地だ。(不意に彼女が席を立ち、隣に腰掛けると驚いた顔をするのも一瞬だけ。何も言わず、ただ隣で美しい景色を見られる喜びを共有しよう。そして頂上に到着し、手を引かれたまま歩き出せば、繋がれた手に気づきながらも大事そうに握りしめて暫し散策を楽しむはず。)それはいいね、帰ってからも思い出せる。お土産か、考えてなかったな……やっぱり食べ物が喜ばれそう?(と土産選びは彼女に委ねる気で、その先も穏やかで幸せな道行きは続く。今日のみならず、その先の日々も。)